元小学校教師・書道師範の経験から知った書写指導法
私の小学校教師時代の書写指導と書道師範の資格を取るまでに学習した経験を踏まえて、主として小学生への効果的な書写指導についてお伝えしたいと思います。
硬筆を上手に書く基本のコツは?
小学生の書写指導は硬筆からスタートしますが、1年生になって初めて文字を書く経験をする子どもは少ないと思います。
なので、厳密には小学校入学時点で子どもによって「書写」へのレディネス(構え)に差が生じていると思われますが、ここではほぼ同じということで話を進めます。
習字に興味を持ってもらうことが上達 の第一歩
子どもの承認欲求は上達の原動力
例外なく小学校低学年児童は強い承認欲求をもって授業に望んでいます。巧みな指導者はこれを上手に活用しています。
なので、指導者は一人一人の子どもの良さを絶えず発見するように努めるべきです。どんな小さな良さも見逃さず大げさにほめることを心がけましょう。
コツは「良さ」をほめることです。
とんちんかんなほめ方をしても子どもの心に響きませんし、何が良いのか分からなければ上達のしようがありません。
ほめる材料はいくらでもあります。
話の聞き方、姿勢、教科書・ノート・筆記具のおき方、鉛筆の持ち方、書く時の姿勢、消しゴムの使い方(きれいに消す、ほとんど使わずに丁寧に書く)、書き終わった時の姿勢、等々
小学校の書写は書道ではなく習字です
昔から書の心得として「守破離」ということが言われてきました。
簡単に言えば、習い始めは基本の教えを「守り」、基本が身に付いたら教えを「破って」個性を追求し、終には教わったことから「離れて」独自の書風を確立するということです。
私の師匠は若いころ国際的な賞を獲得するなど優れた隷書の大家で90歳で亡くなりましたが、80代のある日私にこの守破離について説き、「私はまだ破かな。いまだ離までいかない。」とおっしゃっていました。
現代のほとんどの書家も、毎日まず「守」である基本の練習から始めていると聞きます。
このことから、小学生の書写は芸術というよりはあくまでも基本に徹底します。すなわち、「学ぶ」は「まねぶ=真似る」ということで、具体的には「なぞる」ことから始まります。
書写指導はあくまでもお手本重視
ところが、小学校低学年の発達段階では、この「なぞる」が一大事なのです。
多くの子どもが、「なぞったつもり」になって得意然としています。
わたしは、自分が50の手習いで習字を始めるまでは、「なぞる」とか「そっくりに書く」などと言うことは、どちらかというと軽んじていましたから、ただ書きさえすれば良しとしていました。
もしかすると、字が上手でないお子さんは、そのような小学校の先生の指導で育ったのかもしれませんね。
大体、週一時間の書写の時間がちゃんと確保されているかどうかも怪しいものです。
ほめることで上手な字・美しい字を脳 に刻む
ところで、50過ぎてからの私の書写指導は以前より厳しくなりました。
たとえば、「なぞったつもり」になって得意然としている子たちに対し、ほとんど〇を付けません。
完璧になぞった子にだけ〇します。すると、競争意識の高い(=承認欲求の高い)彼らは俄然ヤル気を出して授業は盛り上がりを見せます。
このようにして、子どもたちは「お手本に忠実な字」がきれいで上手なのだと脳に刻まれることになります。当然のことながら、これが基本なのです。
小学生書写上達のコツは毛筆にあり
書写指導が「厳しくなった」と書きましたが、立派な低学年担当教師ほどには厳しくはなかったと思います。低学年段階では、ほとんどの子が指導されたとおりに文字を覚えます。
あるとき、1年生クラスの補教に入って子どもに板書の間違いを指定されたことがありました。「先生、そこは止めちゃだめだよ」と。
払うべきところをきちんと払わなかったからです。それくらい低学年教師の多くは「とめ・はね・はらい」に厳しいのです。
実は、この「とめ・はね・はらい」を意識しだした子どもたちは、二極化する傾向があります。
一方は、残念ながら書写が嫌いになり、一方はさらに上手になろうと思うようになるでしょう。
できれば、子どもの現状をよく見極めて書写嫌いにならないようにしたいですね。
毛筆の良さを知ることで豊かな表現力 が生まれる
教えを忠実に守ってきた結果丁寧できれいな文字を常時書けるようになってきたら、毛筆を習わせたいですね。
学校でも通常3年生になると毛筆の授業が始まりますが、時数が十分でないので学校の授業だけでは上達は見込めません。できれば、(嫌いでなければ)お習字の塾に通わせたいですね。
子どもが習字が好きになるかどうかは、毛筆が好きになるかどうかにかかっていると言っても良いと思います。
筆の特徴は、言うまでもなく細い文字から太い文字まで自在に調節できることです。その太い・細いも、筆圧、墨量、筆の傾斜、運筆等によって無限の豊かさを表現できます。
もちろん、毛筆においても「お手本重視=そっくりに書く」が基本なのですが、表現の面白さを知ったり、偶然の味のある文字を褒められたりすると、やがて関心は「書道」のほうに向いてくるかもしれません。
習字(毛筆)を教えるときのポイント
お習字の塾に通わせればそれでいいのかという問題があります。
いわゆる書道塾といっても様々です。
塾に行っても、ほとんどの時間を友だちとのおしゃべりで過ごしているとすれば(また、そういうことを許してるような塾であれば)、月謝の無駄遣いということになりかねません。
どんなお稽古事でもそうですが、事前の下見や評判の聞き込みは大事なことです。
以下に、小学生への毛筆指導のポイントを挙げてみますので、あなたが自身の指導の、あるいは塾選びの参考になればと思います。
習字(毛筆)指導の基本を教える
準備
3年生の毛筆指導の最初は準備の練習だけで終わってしまいます。
まず、墨をこぼしてしまうことを前提に服装を整えます。一度墨で汚してしまった衣服は洗濯しても落ちませんのでそれでも構わない服に着替えます。
道具の扱いと仕舞い方
そして、お習字セットの出し入れの練習、お手本と下敷きなどの道具の置き方の練習をします。
半紙に書く段階になったら、書いたものの処理の仕方、墨を付けた筆と硯と(墨)を洗って水を切ったり元に戻したりする練習をします。
毛筆もなぞり書きが基本:かご書きと骨書き
子どもは、指導者が黙っていればお手本を見て書くことをしません。否、出すこともしてない子もいます。ひどい子になると、お習字セットを用意してない者もいます。
そういう子は意外と「お習字の塾に忘れてきた」などと言います。なので、塾用と学校用と2つ(場合によっては自宅用も)購入しておくべきです。
さて、原寸大のお手本のコピーを子どもに渡して1回はなぞり書きをさせます。
また、できれば「籠書き」と「骨書き」もやらせます。私は、お習字セットを忘れた子へのサービスとして、鉛筆で箱書きをやらせていました。
籠書き
これは、輪郭だけの文字(時間があればお手本に半紙を重ねて輪郭を写させる)の中を墨で染め抜くように書く練習方法です。
骨書き
籠書きの次に普通のなぞり書きをしたら、骨書きをします。
これは、お手本の上に半紙を置いて文字線の中心線(骨)を書かせて、その骨に沿って筆を運ぶ練習です。
見て書く
通常はいきなり「見て書く」をさせるのが普通でしょうが、お手本の何をどこを見て書くのかが分からなければ、お手本は「あってなきがごとし」ということになるわけです。
籠書きをするということは、始筆・送筆・終筆の形(=太さ・筆圧)が分かるということです。
骨書きをするということは、字形と字配りに気を付けて書くということにつながるというわけです。
なので、お手本を見るときにそうしたことに注意が向く段階であるならば、「見て書く」だけで十分ということになります。
好きな文字を書いてみる
しかし、練習ばかりで、しかもなかなかほめてもらえないような練習が続くとお習字が嫌いになってしまます。
ときには、好きな字、好きな熟語、すきな詩などを書いたりしてみるとよいでしょう。
お手本無しで遊びで書いてみるのもいいかもしれません。
家族で楽しく習字をしてみよう!
ときには、今はやりのパフォーマンス書道のような真似をしてみるのもいいですね。大きな筆で音楽に載せながら書いてみるとか。
私の家では、毎年お正月に一族が集まった時に大きな画仙紙に書初めを寄せ書きします。
これが面白いのです。小中学校で習ったはずの「大人」の書く文字よりも、筆などまだ持ったことのないような小さい子が書いた文字の方が味わいのある熟語と文字を書くから面白いのです。おすすめです。